「Vol.5」
高橋恭子と話して、少し驚いた。
雲をつかむような要領を得ない私の話を黙って聞いた後、ほぼ二つ返事で出演を了承してくれたのだ。
一点だけ、アフレコでの制作に関しては強く理由を尋ねられた。
演技者である彼女には当たり前のことだろうと思う。
どれほど希薄なキャラクター付けであったとしても、演技者が演技をする以上、作り上げた人物像と感情をもとに動き、言葉を発さなければならない。
そこで発せられた生の声を使わずに作り替えるのだから、それなりの理由が必要なのは当然である。
それと共に、分かりにくい私の説明を理解する手がかりにしたかったこともあるだろう。
しかし当時の私には、それを明確に言葉にすることができなかった。
単純に理解できていない部分があったのも確かだが、それを言葉にすることは、何かが失われることのような気がしていた。
どうにせよ要領を得た説明はできなかったわけだが、とにかく彼女は出演自体は快諾してくれた。
結局いくつも一緒に物を作ってきたわけで、その中で生まれた信頼もあっただろう。いつだったか「他の人だったらやっていない」というような事を言っていた。
一人目の出演者が決まり、私は脚本を書き始めた。
この時点で構想していたプロットは(プロットと呼べるものかは怪しい)、「失踪した男を探す主人公が、四つの場所で四人の人物と話す」というぐらいのものだった。
結末すらぼんやりと想像していた程度で、正直なところどう進んでいくのか分からなかったが、最初のシーンから一人目に出会う
人物との会話までは、さらりと書けてしまった。
正確には脚本というより、「場」と「台詞」だけなのだが。
人物の動きに関するト書きは必要無いし、その人とその場所でやらないと分からない。動きは即興でやるべきだ。そう思っていた。