Director’s NOTE:撮影回顧録(Vol.1〜7 )

「Vol.4」

脚本を書こうとした私はまず大まかな構成を書いた。

それは、主人公がどこへ行き、どんな人物と話すのか。
構成と言ってもただそれだけだ。
それだけしか書けなかったのだ。
何せ次の撮影で撮れるものも、漠然としたイメージだけはあるが、
何が撮れるか分かっていない。
その状態で全編の脚本を書くことなど、無理に決まっている。
私が作りたかったのは、物語に依拠しない、キャラクターの要請に従う必要がない、そういったものから自由な映画だ。
物語は映画のほんの一部でしかない。
最低限の線だけでいいはずだ。
と分かってはいたが、それまで私は、一応人物の感情を中心に据えた物語を作って、それを映画にしてきた。
率直に言って、全編の脚本無しで映画を撮ることは怖かった。
この時点で出演者が決まっていなかったこともあるかもしれない。
「まずは脚本を書く前に人物が必要なのではないか」
「キャラクターが希薄なため、ぼんやりとした人物イメージでは書けないのではないか」そんなことを考えていた。

それから出演者を探すことになるのだが、一人目はもう決まっていた。
高橋恭子に関しては、構成を書いた時点で他の人に頼むつもりはほぼ無かったと言っていい。
なんとなく。本当になんとなくだが。
高橋恭子と私は、20年近く前、私が学生の頃に出会っている。
同級生の作る映画に出演してもらった事が最初だったと思う。
その後は特に頻繁にではないが、他の友人の映画制作で会ったり、彼女の出演する舞台を見に行ったり、ごく稀に一緒に呑んだりと、
長く付き合いが続いていた。
単純にどういう人か、どういう役者かがある程度分かっていたし、その演技に対する信頼もあったと思う。
しかし、すごく漠然としたストーリーラインと、言葉でうまく説明できない「やりたいこと」しか伝えられない。
旧知の人物とはいえ、果たして出演してもらえるかは不安だった。
とりあえず呑みにでも誘ったのか、どう頼んだのかはよく憶えていないが、少し断られる不安も抱えて話した事は憶えている。

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